テレビから、イクコさん その3
テレビは こころで みる
と書いたケントさん。そのことを聞いたイクコさんの「ケントさんの気持ちがわかる」という言葉。
私はメッセンジャーとしてお互いの思いをそれぞれにお伝えすることで、ケントさんは話せないけれど確かに意識があること、わかっていることを、そして四肢麻痺・発語不能となってしまったけれどケントさんの心は倒れる前と何の変わりもないことをお知らせする。
その役目を担えることへの感謝、そしてコミュニケーターとしての活動へ自分が導かれたことの不思議さを思いながら、またケントさんのところに、そして美津恵さんのところに、いそいそと通います。
そうそう、この次にケントさんのところに行く時は、モリちゃんからの質問とフロントランナーさんからの質問を忘れずにケントさんに聞かなくちゃ。モリちゃんはケントさんと共に所属するコミュニティ活動のグループの新しいプロジェクトの名前について。そしてフロントランナーさんは、いつもケントさんに本の朗読をされるのですが、「僕が勝手に選んでしまっているけど、本のジャンルはケントさんの好みに合っているかなあ」と。お聞きしてきます!
さて、ケントさんが「いくこさんに あいたい」と書いたこと。
早速イクコさんにお伝えし、一緒にケントさんをお訪ねしました。忙しいイクコさんとうまく日程が合ってケントさんのリクエストから日を置かずに実現できたことはとてもラッキーでした。
「ケントさん、こんにちは。イクコです。来たよ。」イクコさんがケントさんのベッドの横に立って、ケントさんに顔を近づけて話しかけました。いつも通りの、イクコさんのささやくような優しいアルトの声、関西地方の柔らかいアクセントにケントさんの顔がくしゃくしゃっとなりました。一見すると辛そうな表情です。
イクコさんはご主人の長年の看病で、表に出る表情が必ずしも私たちが通常思い描く感情と一致しないことをよく知っているので、あえて何も言わず微笑みながらケントさんを見つめていました。
くしゃくしゃが収まったところで(ケントさん、変な書き方ですみません)ケントさんの手を取ってみました。
いくこさん こんにちは きてくれて ありがとう
ケントさんが書きました。イクコさんがケントさんの手をとる私の手をじっとのぞきこみます。少女のような好奇心をいつも持っているイクコさんの目がキラキラしています。
「どうやってわかるん? 不思議やね。」
私はケントさんが書く文字を読み取るのだということを簡単に説明しました。
「ケントさんが書いてるんやね。」
読み取りに関する質問とコメントはそこで完了。イクコさんはそのままに受け取ってくれました。一瞬でケントさんとの会話に戻ります。普段の通りのイクコさんとケントさんの楽しいおしゃべりが始まりました。
「昔、夫と行った海外旅行の写真持って来たの。カナダ。ケントさんも懐かしいでしょ。カナダ行ったことあるもんね」
ない
「え、ない? なかったっけ?」
(続きます)
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