旧)今日もヨミトル!

あなたがわかっていること、伝えたい

テレビから、イクコさん その2

ケントさんがテレビを心で観ると言ったその話を、翌日、ケントさんが活動していた、私も所属しているNPOの仲間に話した時にイクコさんが言いました。

「私、ケントさんの気持ちわかるわ。テレビで国内も外国も旅する旅行番組やるでしょう。ああ、ここ行ったことある、懐かしいと思って、テレビの風景の中で自分が実際に歩いている気持ちになるの。ケントさんもあちこち行って、私に旅行のことよく話してくれたから。特に今、動けなくて、もの言えないし、心で見るという気持ち、すごくよくわかる。」

 

障がいのある人を支援するそのNPOには、いろいろな分野で活躍するボランティアの人がいます。地域のコミュニティの活性化、子育てサポート、病気の後遺症による失語症のリハビリ支援、等々。その中でもイクコさんは、今流行の言葉で言えばスーパーボランティア、いえ、スーパーをはるかに超えるハイパーボランティアと呼ぶにふさわしい特別な存在です。

実年齢を知ると誰もが驚愕、絶句するそのお年の今も、いくつもの団体でボランティア活動をして、要職に就く多忙な日々の中で、ジムでマシンや水泳で体を鍛え、プライベートの国内外の旅行や観劇や音楽会を楽しみ、そして、倒れる前のケントさんの良き飲み仲間でした。明るくて偽りのない素敵な女性!「ケントさんの気持ちがわかる」とそっとつぶやいた言葉にも、本当にケントさんの心に寄り添っている温かさがこもっていました。

 

「イクコさんが『ケントさんの気持ちわかる」と言っていたと伝えますね。ケントさん、きっと喜びます。」私はそう言って、次にケントさんをお訪ねする時に持って行ける、ケントさんをハッピーにするものを一つ預かって嬉しくなりました。

 

その次にケントさんをお訪ねした日。

 

「ねえねえ、ケントさん、イクコさんがね、『ケントさんがテレビを心で見るという気持ちわかる』と言っていましたよ。」と話しました。

 

ケントさんは一瞬にして顔をくしゃくしゃと、泣き顔のような顔になりました。

 

わかってくれて うれしい

 

嬉しい時、可笑しい時、悲しい時、辛い時、その泣き顔になります。「笑う」筋肉のスイッチはどこかに今は隠れてしまっているようで、そういえば、美津恵さんも、いつもこの苦しそうな、辛そうな顔になってしまう。後から聞くと

 

たかぎさん へんなこと いうから わらってた

 

と。可笑しくて笑っている、つもりなのに 苦しそうな顔になってしまう。人間の体は本当に不思議です。

 

顔の筋肉が動かず表情のない患者さんの周囲の方へ、

閉じ込め症候群だと、ご本人が辛そうにゆがめる顔は必ずしも辛いことや悲しいことの表ればかりではないと思います。貴方に優しく微笑んでいるつもりでも顔の表情をそのようには動かせず、周りの人は自分が望む反応が得られないとがっかりしてしまうかもしれないのですが、その失望が伝わると、ご本人はまた辛いと思うのです。話しかける時、ぜひ、このブログでご紹介するケントさんや美津恵さんの語る言葉を思い出してください。

あきらめないでください!

 

ケントさんと視線を合わせながら、私は「ケントさんはイクコさんやNPOの仲間と皆でよく食事や飲みに行かれていましたね。楽しかったですね。イクコさんはよくケントさんの話を聴いてくれましたね。」と言いました。

ケントさんの手を取ると、ケントさんは書きました。

 

いくこさんに あいたい

 

(続きます)