熱き心に(6)一休み
神経難病の進行による重度の障害で、
お体の自由と言葉を奪われたタカシさん。
「わかっている」と信じる奥様の強い気持ち、
そして支援者の方々の応援もずっと続いていたものの、
約5年間意思疎通は難しかったのですが、
ヨミトリで、
「はい」「いいえ」の〇と/をはっきりと書いてくださった
タカシさん。
初めてお会いするのに
ずっと前から知り合っているような気持ちになったのは、
温かいご家庭の雰囲気と、
ご夫婦と私をつないでくれた友人のイッシーの
熱い思いのおかげです。
順調にヨミトリがスタートできたので、
このまま一気に文字も書いていただきたいけれど、
書く方もヨミトル方も
ものすごく集中力が要ります。
タカシさん初めてだし、疲れてはいけないから、
ここは慌てずゆっくり進んだ方がいいかしら…。
でも、きっとタカシさんは、書きたいに違いない。
続けてもいいか、〇と/でお尋ねしようと思った矢先、
ピンポーン♪
音楽療法の先生が到着されました。
やっぱり一休みして、
音楽でリフレッシュしてから
本格稼働!
という流れがちゃんとできているようです。
「タカシさん、お疲れ様です。
久しぶりに書かれてどうですかね。
〇と/、しっかりわかりましたので、
素敵な音楽聴いた後、
今度は文字も書いていただきますね。」
タカシさんにそう申し上げてベッド脇を離れ、
イッシーと一緒に
少し離れたところに座って先生をお待ちしました。
音楽療法の時間には、
いつもご友人や支援者の方も聴きに来られ、
タカシさんと一緒に音楽を楽しまれているそうです。
なんて素敵なプログラムでしょうか。
今日は、ゲストはイッシーと私の二人ということで
貸し切りです♪
「こんにちは」
音楽療法の先生が入って来られました。
う…。
先生、美男子。
隣のイッシーもうっとりした表情をしています。
バイオリンをお聴きする前から二人、メロメロモードです。
ご挨拶すると、イッシーが続けてくれました。
「先生、たかぎさんも音楽やられてるんです。」
先生が美しいお顔をこちらに向けられました。
聞かれてもいませんが、調子に乗り、イッシーに続いてつい言ってしまいます。
「バンドやっています。キーボード担当です。
ボーカルは全盲の友人で、
歌詞カードは点字で用意して、
歌う時は全部覚えて歌うんですよ。」
先生に猛アピールしつつ、
タカシさんにぜひ聞いていただきたいと思って
お話しさせていただきました。
おそらく、
私について事前の詳しい情報はほとんどご存じなかったであろうタカシさん。
でも最初から真剣にヨミトリに取り組んでくださいました。
お互いをより知ることができたら
またそういう接点を糸口に
言葉を紡いでいただけるのではないか。
そんな思いもありました。
座っているところから
タカシさんのお顔は見えませんが、
奥様がタカシさんのお近くで、話しかけてくださいます。
「お父さん、すごいね。
いろんな人がいるね」
さあ、先生の演奏が始まります。
イッシーが説明してくれました。
「いつも最初の曲は決まっていて、
タカシさんのテーマソングを弾いてくださるんです」
タカシさんのテーマソング! 楽しみです!
(続きます)