熱き心に(5)なぜか縦線が
ヨミトリの続きです。
タカシさんはとても力強く〇を書かれました。
「いいですねー。では、いいえ、だめの意味のバツの方も書いてみましょうか。
バツは、〇と動きを区別するために、通常、右上から左下に向かって斜めに線を書いていただいているんです。
こう、右上から左下に/(「いや」「いいえ」と言いながら)。
斜めに、書きますよ。では、いいえを書いてみてください!」
…。
あれ…。読み取りにくい…。
動きが今一つ弱いです。
斜め上から下ろす線は書きにくいのかな。
「タカシさん、いいえは右上から左下に向かった斜めに下ろしますよ。
はい、もう一度。」
…。
うーん、困ったな。上手く読み取れません。
先ほどの力強い〇のような線の進み具合がないのです。
そしてしばらく考えて、
あ、ひょっとして…と思いついて私が言いかけた時に、
奥様が言ってくださいました!
「あの、元々ほとんど『いや』とか『だめ』と言わない人なんです。そういう否定的なことは言いたくない人で。なんでも、『いいよ』『やろう』といつもすごく前向きで」
なるほど! やっぱり信条とされている前向きとは反対のことは、ためらいが出るんですね。否定的なこと、できれば書きたくないですものね。わかります。
しかし、ここでは書いていただかないといけません。
「タカシさん、いつも前向きんなんですね。すごくいいことですね。ただ、ヨミトリの時は、私のために敢えてしっかり/を書いていただけますか。取り間違いしてしまうことがあるので、そのまま間違ったまま思い込んで対話が進んでしまうといけないですから、いいえがすごく大事なんですね。『今書いたのは違うよ』と教えていただきたいので、/も先ほどの〇のようにしっかり書いていただけますか。お願いします。ではもう一度。」
/。
出ました。力強い/。今度はしっかりわかりました!
こうして、お互いに書きやすい状態、読み取りやすい状態を工夫して一緒に探しながら、対話を進めていく、この協働がまさにヨミトリの一番大切なところです。
実は、ヨミトリは、初めてお目にかかり、すぐにトライしていただけるケースばかりではありません。動かない手で書けますというのをすぐ信じてくださいという方が無理なのかもしれませんが、当事者の方が懐疑的であれば決して無理強いできませんし、当事者が一所懸命書いても周囲の人がそれを信じらないと、書けるのに伝える意欲を失くされてしまうこともあります。
タカシさんも奥様も最初から心を開いて受け入れてくださり、柔軟な適応力と前向きな心でタカシさんが私の拙い説明をすぐ飲み込んで、トライが非常にスムーズに進むことに、心から感謝しました。
私はこれは行ける!と確信し、文字にも少し挑戦してみたくなりました。
(続きます)