旧)今日もヨミトル!

あなたがわかっていること、伝えたい

熱き心に(2)横線成功!

タカシさんはベッドに仰向けで、視線も天井の方をまっすぐ見る形で横たわっておられました。手は両腕とも体に沿ってまっすぐ置かれていました。

「タカシさん、こんにちは。イッシーの友人のたかぎくみこです」

 

タカシさんも緊張しておられるのか、視線もあまり動かず、一見しただけだとまだ表情の変化などはわかりません。 

 

続いて私の行っているヨミトリという介助付きコミュニケーションの活動についてお話しさせていただきました。

 

「病気や事故の後遺症で、四肢麻痺や発語不能により覚醒しているのに、自分の意思を表出できない方が、字を書く動作を頭で思い浮かべる際に手に伝わる微細な動きを拾います。その拾った一つひとつの線の縦、横、丸める等の微細な動作を、順に私の手のひらになぞっていくことで、一つの文字や記号を構成します。」

奥様がタカシさんのお顔を見て「一緒懸命聴いています」と言ってくださいます。

 

予定では音楽療法の後、ヨミトリをさせていただくことになっていたのですが、先生の到着までまだ少し間があるとのことで、少しでもトライしてみようということになりました。

 

「要はタカシさんに字を書いていただくのですが、字を書く時は腕や手首を持ち上げてその状態をキープしたまま左右や上下に動かしたり線を丸めたりしますね。タカシさんは、今は自分でコントロールができなくて重力に負けて手が上がらないと思いますので、私が手を持って支えさせていただきますね。」

 

奥様にお聞きするとタカシさんは利き腕は右手ということなので、先ずは私の右手でタカシさんの右手首を下から支えます。そしてタカシさんに話しかけました。

 

「宇宙物理学者で神経難病のALSを患った故ホーキング博士が宇宙に行った時、

『宇宙では私は自由だ』

と言ったそうなんですよね。同じ仕組みかなと思うのですが、少しでも動きのある方の場合は、こうして手をお支えするだけで可動域ができて、より動かすことができることもあるんですよ」

 

タカシさんからははっきりした頷きとか表情の変化は私にはわからなかったのですが、でもしっかり聞いてくださっていることを確信しました。

 

「では、先ずは縦と横の線からいきましょうか。書くのは久しぶりでいらっしゃいますよね。横線を一緒に書いてみましょう。左から右へ。左から右へ。そうそう。今は私が少しリードしましたけれど、では私はタカシさんの手を支えるだけにしますね。横線書いてみていただけますか」

 

キャンバス代わりの私の左の手のひらに触れる
タカシさんの右手人差し指の先から伝わる動きに
全神経を集中します。

 

ゆっくり左から右へ。

 

わかります!

 

「もう一度お願いします。」

 

左から右へ。1本の線。

 

「わかりました!タカシさん書かれていますよ。
線を左から右へ横に引っ張ったのが確かにわかりました。」
固唾をのんで見守っている奥様とイッシーの方に思わず叫びました。

奥様とイッシーが詰めていた息を同時に大きく吐きました。

「あー」

 

(つづきます)