さようなら、ケントさん
こんにちは、たかぎです。
ケントさんがご逝去されました。
妻のルミコさんと二人で静かな時を過ごし、
最後に一つ大きく息を吐いて旅立たれたそうです。
年末頃から少しずつお体の衰弱が進まれていましたが、私が1月半ばにお訪ねした時も、苦しそうなご様子はなく、いつも通りにお話しすることができました。
「ケントさん、こんにちは」
こんにちは。
「痛いところとかお辛いところ、ありませんか」
だいじょうぶ
いつも ありがとう
ちょうどNPOの仲間である裕ちゃんから、彼女の失敗談のメールが届いたところだったので、早速ケントさんに報告しました。
「ケントさん、裕ちゃんが自転車で高速疾走中に転んで膝を擦りむいちゃったそうです。それから、家ではお料理中に火を止めたばかりの鍋を降ろそうと思って、なぜだかお鍋じゃなくてその下の五徳を手で掴んじゃったんですって。なにか考え事でもしていたのですかね~。裕ちゃんってクールビューティーという雰囲気なのに、案外おとぼけですよね」
ケントさんが書かれました。
おもしろい
お体を動かすことができず、言葉を発することができず、お顔の表情を作ることもできませんが、ケントさんは短い単語ながらも「おもしろい」とすぐ書かかれ、きっと笑いながら書いてくださったような気がしました。
「ほんとに、笑えますよね」
おもしろい はなしが きけて たのしい
先に大丈夫と書いてくださったものの、お身体の何か変調を感じられていたのでしょうか。ケントさんが続けて綴られたのは、施設のスタッフの方々への感謝の言葉でした。
(元気になって)ここから でるのは むりみたいだから
どうしても いって おきたい
ここのひとたちは とても いいひと
おれいを いいたい
ケントさんの心からの思いだということが伝わって来ました。ご自身の身の不自由さを一切嘆くことなく、ご自分に関わってくれるスタッフさんへの感謝の思いを表されるケントさんに、胸が一杯になりました。
その後また、たわいもない話をしばらくしました。
帰る時間となり、「ケントさん、そろそろ失礼しますね」とご挨拶すると、
ケントさんは
ありがとう
また きてね
と書いてくださり、これがお別れとなりました。
前々回までのブログ「ケントさんと初めてヨミトリした日」で、ヨミトリの経過のことが途中になってしまっていましたが、結論を言うと、最初にトライした瞬間から、ケントさんの書く文字ははっきりと読み取ることができました。
脳の広範囲の損傷の画像や診断から、意識レベルの厳しい状況を説明されていたルミコさんは、最初とまどっておられました。
でもケントさんが以前から私のヨミトリの活動の話を熱心に聴いてくださって、時にアドバイスをくださっていたこと。どのように書いてどのように読み取るのかということについてもよくご存じであったことをお伝えすると、「夫は意思疎通できる道を自分で作ってあったのですね」と喜んでくださいました。
また、「お忙しい中いつも足を運んでくださってありがとうございます」と、折に触れ言ってくださるルミコさんに、私の胸の内を聞いていただいたことがありました。
それは、ケントさんのお見舞い、ご支援する立場に専心しなければいけないのに、NPOの活動を共にし何でもご相談していた時と少しも変わらず、今はヨミトリの実践に共に取り組む仲間としてたくさんの気づきや教えをくださるケントさんに、ありがたい、という思いがあって、お体もまったく動かせず、言葉を発することもできない極限の状態におられるケントさんに、ありがたいなどと思っている自分は何なのだという、申し訳ないという葛藤でした。
その時にルミコさんは、「夫がこんな状態であっても、この状態であることで誰かの役に立てているのなら、そしてそれをありがたいと思ってくださることは、私にとっても救いですよ」と言ってくださったのでした。 私はルミコさんの言葉に救われました。
ご葬儀の際、多くの方に慕われたケントさんのお人柄が語られ、「良いことは引き継がれる」と説かれた言葉がとても心に残りました。
NPOの活動でも、ケントさんはいつも前向きで斬新なアイデアや意見を示してくださり、私の悩みや迷いにもいつも温かい励ましの言葉をかけてくださいました。それは、倒れてまったくお体を動かせなくなってからも変わりませんでした。
いいことだ
たかぎさんが いいと おもうことを
どんどん やって
ケントさん、本当にありがとうございました。
ケントさんのベッドサイドには、いつも、ケントさんを慕う人々が集っていましたね。
ケントさんを囲んで、それまで知らなかった人達の新しい出会いと、深い親交の場が広がって行きましたね。
明晰な頭脳
進取の気性に富むダイナミズム
困難に立ち向かう強さと共に
人情の機微がよくわかる繊細さ
すべてをお持ちだった、人生の偉大な先輩。
最後まで希望を失わず、力強く生を全うされたケントさん。
お疲れ様でした。
さようなら、ケントさん。
たくさんの学びをありがとうございました。
どうかこれからも、
天国から見守っていてください。
ケントさんに合格点をいただける日をめざし、
私はこれからも全力でヨミトリます!